ボイトレTips #016 ♪ 喉声を直す「ふたつのマジック」

たとえば、歌いたい歌があるとします。でも上手く歌えないとき、あなたはどうしますか?
「とにかく練習しよう!」
そう思って、あなたは何度も何度も繰り返し歌いました。
どこかで聞いた「お腹に力を入れて」や「口を大きくあけて」などを実践しながら歌ってみました。
でも、うまく行きません・・・
むしろ歌い難くなって喉も疲れる感じです。
やがて声が嗄れてしまいました・・・

「自分は喉が弱いのかな?」そんなふうに思っていませんか?
そんなあなたにワンポイント・アドバイスしましょう。
喉が疲れる、声が嗄れる、という症状は「喉声(のどごえ)」で歌っているためにおこるものです。
「喉声」は声帯に無理な力がかかった状態で発声するので声帯を痛めてしまうのです。

<ふたつのマジック>
それでは喉声を直すシンプルな練習方法をお教えしましょう。
歌詞をすべて「ダ」に置き換えて歌います。
たとえば「あいたくて~」を「ダダダダダ~」と歌うのです。
この練習方法はキリガヤ・メソッドの発声理論に根差したもので、即座に喉声から解放されます。
どうですか?「ダ」で歌うと歌詞で歌った時に比べて、はるかに歌いやすくなったでしょう。
これが濁音のマジックです。濁音は声帯がきちんと閉じて振動する発声になるのです。

さらに「ダ」にはもうひとつのマジックがあります。それはタンギングのマジックです。
タンギングとは舌が上顎に触れることで空気の流れを瞬間的に遮断する動作ですが、 同時にタンギングは声帯閉鎖のきっかけになるのです。
したがって「ダ」のようにタンギングをして発音する言葉はスムーズな声帯閉鎖が行われるので声が出やすくなるのです。

「ダ」が歌いやすいのは理想的な発声のために不可欠な声帯閉鎖、つまり声帯をきちんと閉じて、 そして豊かに振動させるという声帯のコントロールが無意識のうちに出来るからなんです。
発声の初動にきちんと声帯閉鎖が出来ると声帯を閉じる力が不要になります。
ちなみに「声をアテる」というのは、この状態の発声をいいます。
逆にきちんと声帯が閉じていない状態で発声を続けようとすると無意識に声帯を閉じる力がかかります。
この力が声帯の振動まで押さえつけてしまい、結果として喉声になるのです。

そうです!「ダ」に置き換えて歌うだけです。
ただそれだけで確実に歌いやすくなるのは、このような理論に基づいているからなのです。

そして仕上げは「ダ」のイメージのまま、しっかりとアテて発声した声で歌詞を歌います。
良い歌に仕上げるコツは「ダ」から歌詞に戻したときに少し声量が下がるくらいに歌います。
こうすることで言葉のニュアンスを変えずに安定したボーカルになります。

これらのことを実践すれば「自分は喉が弱いのかな?」は間違いだった。
声の出し方が悪かったんだと気付くでしょう。

かつて私も「自分は喉が弱い」と思っていました。
ライブをやれば必ず後半は声ガレを起こしていましたし、気持ちよく声が出て来ないときはピッチも不安定になりました。
そんな私が目指したのはシンガーではなく、作曲家やプロデューサーでした。
しかし・・・
私のデモテープを聞いたアルファレコードのプロデューサーは、私の楽曲とボーカルの両方を気に入ってくれたようで、初めて会ったときにこんな会話をしたことを憶えています。
プロデューサー>君は自分の書いた曲を他のシンガーが歌ってレコードになるのと、他の作家が書いた曲を君が歌ってレコードを作るのでは、どっちがいい?
私は迷うこと無く即答しました。
私>自分の曲をレコードにしたいです。歌うのは誰でも良いです。
プロデューサー>う~ん。歌うのは自信がないの?
私>はい!、喉が弱いし、声量もないし・・・
プロデューサー>そうかぁ、でも、このデモテープくらい歌えたらさ、大丈夫だよ。自分で歌ったら?

ユーミンやハイファイセット、サーカスなどのヒットレコードを制作している大プロデューサーにそう言われて、 自分は喉が弱い!と思っていたのにも関わらず、なんとシンガーソングライターとしてデビューすることになったのです。

そしてレコードの制作が始まりました。
憧れのSTUDIO Aで私の曲を坂本龍一や松任谷正隆がアレンジして、超一流のスタジオミュージシャンたちと演奏しています。
夢のような光景です。
そしていよいよ私のボーカルの録音です。
レコーディングスタジオの録音環境は最高です。
最高のマイクとプリアンプで集音され、最高のリバーブがかかった自分の声がヘッドホンから心地良く返ってきます。
とても歌いやすいのです。
そのせいかプレイバックを聞くと自分でも上手く歌えたなぁ、と思える出来なのです。
不思議なことに喉も全然疲れません。

このレコーディングのとき、マイケル フランクスやジョージ ベンソンのレコーディングを手がけていたエンジニアのアル シュミットにマイケル フランクスのボーカル録りの方法を聞いてそれを実践していました。
そのレコーディング方法はマイクに近づいて小さな声で歌うというもです。
こうすることで倍音を多く含んだ良い声が録れるということでした。

その後、キリガヤ・メソッドを構築することで、スタジオで気持ちよく声を出して歌うことができた理由がわかったのですが、小さい声で歌うと喉にかかる力が半減して、声帯閉鎖がしやすくなるのです。
つまりアテる発声になるのです。

当時その理由はわからなかったけれど、その歌い方で無事に全曲のレコーディングを終えました。
私自身、仕上がりにも満足の出来でした。
しかし、順調だったのはここまでで、ファーストアルバムを引っさげてライブが始まると、まあ、思うように歌えないのです。
喉は疲れるし、ピッチは揺れるし、声は嗄れちゃうし・・・

上手く歌えなくなってしまう理由は明解です。
ライブではレコーディングスタジオのように小さい声では歌えません。
ステージ上はバンドの音量が大きいためにシンガーは無意識に声量を上げようとしてしまうのです。
そのため喉に力が入り大切な発声初動の声帯閉鎖がかなわずに喉声になっていたのです。

ライブでは思うように歌えないため、だんだんとレコーディングに重点をおくスタイルになって行き、いつからか私は「滅多にライブをやらないアーティスト」と言われるようになっていました。
その後、縁があってロサンゼルスのボイストレーナー、フローレンス リグスのレクチャーを受けることになるのですが、ここで初めて「声帯のコントロール」という発声テクニックに出会います。
この英語を母国語とする人のための画期的なメソッドを日本人の特性に合わせて再構築したものがキリガヤ・メソッドです。
このキリガヤ・メソッドの構築によって「なぜ、ライブでは上手く歌えなくなってしまうのだろう?」といった疑問がすべて氷解しました。
キリガヤ・メソッドを構築してから、私自身のライブを再開しましたが、2時間のステージもまったく喉の疲れもなく、レコーディングのときのように気持ちよく歌えるようになりました。
1ステージで声がダメになってしまうと言っていたアーティストがキリガヤ・メソッドによって、ひと夏に20本もあるツアーを難なくこなし、その後も声のトラブルをおこさずステージ活動を続けています。
現在、多くのプロシンガーから支持されているこのメソッドを気軽に体験していただきたいという思いで単発の講座を企画、開催しています。
開催日等の詳細はTipsのページでご案内いたします。
みなさんのご参加をお待ちしております。